教会の言葉
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8月のメッセージ
2016-09-16
絶対悪である戦争 牧師 藤田浩喜
「そこで、ピラトはイエスを釈放しようと努めた。しかし、ユダヤ人たちは叫んだ。『もし、この男を釈放するなら、あなたは皇帝の友ではない。王と自称する者は、皇帝に背いています』」
(ヨハネ福音書19章12節)
8月6日(土)に放映されたNHKスペシャル「決断なき原爆投下~米大統領71年目の真実~」は、衝撃的な内容でした。原爆投下時の米国大統領は、ルーズベルト前大統領の急死を受けて副大統領から就任したトルーマン大統領でした。彼は原爆投下後のラジオ演説で「戦争を早く終わらせ多くの米兵の命を救うため原爆投下を決断した。皆さんも同意してくれると思う」と言いました。そしてこの決断が、今に至るまでアメリカ社会で原爆投下の大義とされてきました。しかし、それは後付けの理由であって、トルーマンは原爆計画(マンハッタン計画)について詳しく知ろうとしなかった。第一の原爆投下候補地であった広島についても軍事都市という認識しか持っておらず、一般市民に大きな犠牲が出るとは考えていなかった。米軍はそのような明確な態度を示さないトルーマンの姿勢を原爆計画に対する黙認だと受け取って、広島と長崎に原爆を投下したというのです。実際軍による原爆投下指令書をトルーマンが承認した事実を示す記録は見つかっていないのです。では、なぜ軍は原爆投下を強行したのでしょう。それは原爆投下の責任者を務めていたレスリー・グローブス准尉の最近見つかったインタビューテープから明らかになってきました。マンハッタン計画は、全米屈指の科学者を結集し、22億ドルもの国家予算をつぎ込んだ国家プロジェクトでした。「原爆が完成しているのに使わなければ議会で厳しい追及を受けることになる。」グローブスを初めとする関係者たちは、原爆の効果を証明しなければなりませんでした。しかも、日本の降伏は間近と見られていました。そこで戦争状態にある間に原爆の効果を証明するために、広島、長崎等への投下が決定されたというのです。目標地点をどこにするかという専門家会議では、「人口が集中する地域で直径5キロ以上ある都市にすべきだ。それも8月まで空襲を受けず破壊されていない都市が良い」(物理学者スターンズ博士)という意見も出されたと言います。戦争という異常な状態の中で、敵国の一般市民のおびただしい犠牲を十分予想しながら、それよりも他の事情や自分の保身がやすやすと優先されてしまう。これは、戦争という理性の停止状態の中で、米国でも日本でも実際起こったことだと思うのです。その意味でも戦争は、いのちへの冒涜であり、絶対悪なのです。
(2016年8月)