教会の言葉
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10月のメッセージ
2017-11-17
『一つの呼びかけ』
「イエスはその場所に来ると、上を見上げて言われた『ザアカイ、急いで降りて来なさい。今日は、ぜひあなたの家に泊まりたい』。ザアカイは急いで降りて来て、喜んでイエスを迎えた。」
(ルカによる福音書19章5~6節) 牧師 藤田浩喜
ある保育者からの受け売りですが、子どもが自分の名前を怒られる時にしか呼んでもらえないと、自分の名前だけでなく自分自身のことも嫌いになってしまうそうです。たとえば「浩喜、早くしなさい!」「浩喜、ご飯をこぼさない!」「浩喜、よそ見をしない!」などと言われ続けると、自分に自信が持てなくなってしまうというのです。最近はやっているアドラー心理学では、セルフ・エスティームという言葉がよく使われます。これは直訳すると「自己尊敬」ですが、分かりやすく言うと、「自分を好きになること」です。自分を好きになると、自信が持てます。自信が持てると、少々失敗しても乗り越えていくことができます。そのようなセルフ・エスティームはどのようにしたら育っていくのか?それは親や先生や周りの大人たちから親しみのこもった視線を向けられ、優しい声をかけてもらうことによって、しっかりと育っていくのです。冒頭の聖書は、徴税人の頭であるザアカイが、イエス様と出会って回心する有名な箇所です。ザアカイはイエス様を家にお泊めして、もてなしたことでしょう。すると彼は大きな決心をしたかのように立ち上がって、こう言うのです。「主よ、わたしは財産の半分を貧しい人に施します。また、だれかから何かだまし取っていたら、それを四倍にして返します。」(8節)ザアカイがなぜ、こんなにも早く心を入れ替えたのか。どうしてイエス様と出会ったとたん、人が変わったようになったのか不思議でした。ずっと腑に落ちなかったのです。しかし、イエス様の「ザアカイ、急いで降りて来なさい。今日は、ぜひあなたの家に泊まりたい」という呼びかけが、彼には決定的なことだったのです。今まで、彼の名前が呼ばれるとき、良い意味で呼ばれることはありませんでした。彼の名前は怒りうあ非難の中で、あるいは陰口の中でしか呼ばれることはなかったでしょう。しかし、あの人々から尊敬されているイエス様が、親しみを込めて、「ザアカイ!」と呼んでくださった。しかも自分の家に泊まりたいと言ってくださる。その呼びかけはザアカイにとって、自分という存在を取り戻すことのできた、まさに救いの瞬間だったと思うのです。一つの呼びかけが人を変えるのです。(2017年10月)